森博嗣の「イナイ×イナイ」で、オーディオマニアな女性名探偵はいかが
出張にしても、旅行にしても、出かけるときはミステリィを一冊持って行くことにしています。乗り物に乗っている間、待ち時間の間、ホテルの夜。どうしても無駄な時間が多いですから、この間にミステリィを読むのが好きなんです。最近は「森博嗣」さんのミステリーを持って行くことが多くなりました。森博嗣さんは中部地区にあるN大学の工学の先生なんですが、今や作家としても超人気作家となりました。今やテレビドラマにもなるという理系ミステリィの世界を作った人の1人ですね。どちらかというと情念や動機の改名に焦点が当たりがちな日本のミステリーですが、そんなこととは他人の理解のおよぶことではないと割り切って、犯罪の実行可能性や登場人物の客観的な行動、振る舞い、状況に焦点を当てていくというやり方です。だから、ミステリーファンの中には、スッキリと全てが改名されていかないという形式に物足りなさを感じる人もいるかもしれません。でも、結局素人探偵が事件に迫るという本来無理のある設定がミステリーには課せられた課題でもあるわけで、謎が謎として残ることがむしろ現実に近いともいえます。また、基本的には全てが密室で起こる一見実行不可能な事件ばかりで、これも最初はビックリするんですが、ここでも通常の密室ミステリーのような緻密さで謎が解かれるのではなく、工学や建築学、物理学(あと、ものすごい財力)を利用した大胆な発想であっけらかんと割り切っていく形式で、驚きはしても謎解きの感動もまた薄いものだったりします。では、森ミステリィのおもしろさはどこにあるのか。森ミステリィのおもしろさはまさにその淡々と、事件や登場人物に関わっていくという、客観的な出来事の重なり合いが現実だという姿勢そのものなんですね。私たち心理学をやっているものは「心」が理解できると思われがちですが、実は「行動」を見ることでその人を理解しようとしています。言葉を大事にしますが、実際の行動という裏付けがない限り、それは現実の中に存在しないわけで、やはりいつも行動を見ていることになるのです。森ミステリィにはそうした客観的な視点によって犯罪を解明し、さらには登場人物の関係さえもとらえていこうとする姿勢が、とても刺激的で、またある意味の本質に触れるところがおもしろいと思わせるところです。まあ、そうは行っても実はこれにも裏があって、森ミステリィは最初の著書となる「すべてがFになる」からはじまって、すべてがつながりを持っているんですね。すべての出来事はバラバラなように見えて、人間はみなどこかでつながっている。東京で吹いた風が、ニューヨークのチョウチョに影響を及ぼすかのようにつながっている。それぞれの出来事が、少しずつ登場人物の変化に結びついていく。こうした要素も森ミステリィの重要な魅力になっています。ということで、初めて読まれる方には「すべてがFになる」から読まれることを強くお勧めする(作品としてもこれが一番の傑作です)のですが、今回のたびに持参した「イナイ×イナイ」はもっとも最近はじまった×シリーズといわれる作品の1号に当たるものです。こちらもいずれ他のシリーズとのつながりが明確に出てくると思いますが、「イナイ×イナイ」ではそれほどでもないので、最初に読んでみてもよいと思います。ということで、森ミステリィの紹介が長くなってしまいましたね。
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