レクストのDAC-NS1Sと、私の求める再生について
ジャズで空間がよい、音色の多彩さがよいということを不思議に思われる人も多いかもしれません。そんな聴き方、音楽評はないだろうと。私も以前は分かりませんでした。強いリズム、強い音を求めてました。リズムは歯切れとパンチ、トランペットは天に駆け上がるような音の爽快感というようなものばかりを気にしてました。もちろん、それはジャズの魅力の大きな要素であって、必要不可欠なものなんですが、どうもそれだけではないなと、このところ思うようになっているのです。
きっかけはサックスの音色。サックスはリードが木製で、その振動が音になります。あのきらびやかな胴体を見ると間違いやすいですが、サックスは木管楽器なんですね。フルートなどもそう。どうもうちの音はこの木管としての音色、もともとの音の太さや柔らかさ、その音色の微細な変化がちっともとらえられていないんじゃないかと思い始めたことでした。スピーカーの間隔を修正したり、部屋の音響を整えようとしたり、いろいろと試してみました。すると、少しずつ音の柔らかさ、弾力感が出てきました。さらに、濃淡や音色の変化も少しずつ出てくる。ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」にもいろんな響きが入っていることが最近になって分かるようになったのです。これまではロリンズのサックスの音ばかりを聴いていて、音が太いとか、強いとかに気をとられるあまり、その周囲に広い響きがあること、そこでロリンズのサックスが軽やかに歌っていることを知りませんでした。そのことに気がついてから、もっと空間や音色の変化を再生できるようにと思うようになったのです。昨年の1年はそうしたことへのチャレンジに明け暮れた1年でもありました。
マイルスに話を戻すと、その結果この1年で最も魅力的に見えたアーティストはマイルスなんですね。私はジャズファンですが、マイルスが好きというわけではありませんでした。線が細くて、神経質な感じが私にはあまりあわなかった。音を小出しにしている感じで、もったいぶっているようでもある。力押しのジャズを求めていた耳には、そう聞こえていたわけです。しかし、響きや音色を聞き出すと、マイルスのミュートの魅力的な音色、強弱の微妙なバランス、優しくかつ鋭い響きなどが生き生きとしてきました。レクストさんで聴いた「カインド・オブ・ブルー」もまさにそうしたところが良く出ている。我が家がずっと悩んできたところをすぅーっと当たり前のように再生されていることに気がつきました。さらにリクエストして、当の「サキソフォン・コロッサス」をかけてもらいます。これもイメージ通り。最初のドラム、シンバルを強く聞こうと思うあまりにロリンズのサックスの音が一面的になって抑揚が見えなくなる。この超有名なディスクはこれまでずっと聴いてきました。ワンホーンカルテットで、比較的単純な分かりやすい録音です。だから、ずっとあの直接的な音でいいんだと単純に思っていました。それでいいのかと悩んだ1年だったのに、レクストさんではパッと当たり前にそういう音が出る。「ああ、そうなんだ。こういう音が入っているんだ。サキコロはやっぱりライブなんだ」と納得できる音が出ています。私は、これでいいんだと思うんですね。サキコロはライブなんです。ライブとスタジオ録音の違い。我が家でもようやくこの違いが分かるようになりました。レクストさんのD/Aコンバーターはこれをしっかり表現します。
これらの印象はアンバランス接続よるものです。レクストさんの話ではこのD/Aコンバータに3つのシステムが入っているんだそうで、RCA(アンバランス)システム、XLR(バランス)システム、もうひとつはヘッドフォンアンプのシステムだそうです。このD/Aコンバータは珍しいことにアンバランスがメインの設定なんだそうです。バランスに変えると中域の音が前に出てきます。マイルスの立ち位置が前に来て、トランペットの音も太くなります。パッと聴いた印象は以前の我が家の印象に似ているんですね。いろんな場所で聴いてもこうした音の方が多いと思うんです。我が家も基本的にオーディオ系の音ですから、それとずれているわけではありません。上から下まできちんとしたテンションがあり、しっかりした描写ですが、比べてみれば奥行きやグラディエーションが薄くなる。全部の音が前に出ようとするので、力強さはありますが、押し引きの、引きが足りないと今の私は思ってしまいます。アンバランス接続で「マイルスが遠い」と思う人はバランス接続の方がしっくりくるかもしれません。でも、今はその加減をが問題だと私は思っています。それとこのバランスはちょっと抜けが悪い。レクストさんとしてはこのアンバランスの音は、やや古い音のジャズイメージの延長線上にあって、多くの人が抱くオーディオのイメージとも近いのではないかと言います。50~60年代のジャズをがっちりと聴くイメージなら中域に絞られた方がよいかもしれない。いずれにしても音色自体には変な強調感が無く、基本的にストレート系だと思います。ただ、先の特徴の違いで、アンバランスは少し線が細く、バランスはもうちょっと濃い感じはするでしょう。我が家の現状は、この中間ぐらいのイメージです。足して2で割った感じにあります。
マイルスのトランペットや「サキコロ」に求める音について読んでいただいたように、我が家は実は去年からオーディオ革命が起こっています。先の話の通り我が家は簡単に言えば前に出る、力のある音を目指してきました。上から下までしっかりとエネルギーがあること。鮮明さと分解能を失わず、線が細くならないこと。しかし、そこにもうひとつ音楽の表現を入れて、音楽的な柔らかさ、ゆとりも欲しい。映像系ではBlu-rayへの移行を前にしながらも、オーディオでもこうした思いが強くなった昨年の我が家だったのです。そうした我が家の現状に、このDACの音は非常にマッチしているように思いました。レクストさんは「CDの壁」という言葉をよく使われました。CDの中にはたくさんのデータが眠っているのに、それをこれまでのプレーヤーやDACはきちんと拾ってこなかった。それを十分に拾えるようにしたのがこのDACだと言うのです。「CDの壁」というのが正しいのかどうかは私には分かりませんが、私にもこのDACの音が他のプレーヤーとはやはり違うということはわかります。この日の実験ではエソテリックのユニバーサルプレーヤーUX-1につなぎ替えての比較試聴も行ってくれました。すると、一気に音の色彩感が失われて、シンバルの響きやトランペットの音色が一面的、平面的な抑揚のない表現になってしまう。前後の立体感や抑揚が無くなってしまうと感じました。確かに1本1本のの音の線は力強いし、カッチリしている。音も前に出ている。しかし、やっぱり音楽が豊かとは言えない。音の色彩感が表現されていないのです。あのエソテリックのプレーヤーでも、こんなに違うのかと正直思ってしまいました。こうして比べると私の求めている音とエソテリックの音はやはり違うのかもしれないと思ってしまいます。エソテリックの音は確かによい音なんですが、どうも納得できない気持ちが強くて、今までも買わずに来ました。エソテリックの音の安定感が強すぎて、スイングしている感じが出ないように思う時があるのです。音がどっしりと座りすぎてしまう時がある。安定した低空のラインで、音が一定してしまう。クラシックではこの座り加減が非常によいわけですが、ジャズではどうか。同じようにアキュフェーズでも迷います。アキュフェーズの音は明るい。非常に丁寧だし、出るべき音はこちらもきちんと出ているんだけれども、今度は明るいハキハキとしたラインで一定の音にまとまりやすい。音がいつも輝いている。この2社の音は本当によいんだけれども、まじめで遊ばない。そこがいつも引っかかっています。レクストは、その意味では個性が残る。エソテリックに比べると音が少し軽い。もうちょっと沈んだ感じも欲しい。アキュフェーズのように音数の多さが炸裂する感じもない。もう少し音数があってもよい。まじめさやしっかりとした芯の強い音を求めれば、これも先の2社の方がやはり優れているかもしれない。特徴である響きももしかしたら強すぎるのかもれしない。それでも、やはり魅力のある音だとは思うのです。柔らかさと、空間の響きに独特の魅力を持っている。ちなみに、先のUX-1をトランスポートとして使用するとこれらの不満がかなり無くなっていくのがおもしろいところでした。アキュフェーズの明るさは出ませんが、低音の芯がしっかりしてて来て、輪郭のバランスももっとよくなります。この組合せが個人的には一番よかった。やはりエソテリック自慢のVRDSの実力は大したものです。このセットで聴く限り私はそう思いました。
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